2015年7月30日木曜日

『月と蟹』

『月と蟹』道尾秀介

鎌倉の海と山の景色だけでなく、そこに吹く風の音や、山道のじめっとした湿気までも感じられるような豊かな描写で、まるで自分が鎌倉で幼少期を過ごし、大人になってその思い出を振り返っているかのような不思議なノルスタジーを味わいました。切迫早産で入院中に読んだので、殺風景な病室を抜け出せたかのような気持ちのよい読書タイムでした。

おそらく本作を映像で表すと、陳腐な家族ドラマにしかなり得ないのだろうけれど、小説ならではの情緒にあふれた作品で、読書のすばらしさを改めて確認しました。

2015年7月26日日曜日

『64(ロクヨン)』

『64(ロクヨン)』横山秀夫

NHKの連続ドラマがすごく面白かったので、すぐに原作を借りてきて、もうすぐ臨月の大きなお腹に分厚い本書を乗せ、手に汗にぎりながら一気に読みきりました。

未解決の幼女誘拐事件がストーリーの柱ではあるものの、いわゆる犯人探しのサスペンスではなく、事件扱う警察内部の人間関係を描いた社会派小説とでもいうべき作品。

世の中で最も正義的なイメージのある警察(県警)における政治事情、腹の探りあいと足の引っ張り合い、根回し、裏工作、心理戦……大の大人の男たちが、困ったり焦ったりにやついたり弱ったりしているようすを、善良な一般市民の視点から気持ち悪く眺めた感じ。警察といえども、組織とは多かれ少なかれドロドロを含んでいるのでしょうね。

ちなみに、NHKドラマは原作にかなり忠実に作られており、よくまとまっていたなぁと感心。胎教にはよろしくなさそうだけど、また折をみて観返したいです。

2015年7月1日水曜日

『キャプテンサンダーボルト』

『キャプテンサンダーボルト』伊坂幸太郎・阿部和重

合作とは思えない合作。どちらがどこを担当したのかさっぱりわからないほど上手にブレンドされており、素直に1つの作品として楽しめます。

話のテンポが悪かったり、盛り上がるべきところがあっさりしすぎていたりと、やや物足りない部分があるのも事実。率直に言って、『ゴールデンスランバー』の方が断然おもしろい。

それでも、二人の主人公が知恵を出し合い、励ましあいながら敵に向かう姿は、まさにプライベートでも仲良しだという作者二人に重なる部分があって、なんだかもう微笑ましくすらあります。

あまり深く考えずに一気に読み通して、ハラハラドキドキの世界を楽しんだら、それでいいんじゃないかな。