2015年1月28日水曜日

『どぶがわ』

『どぶがわ』池辺葵

『共喰い』を読んだ後、無性に読みたくなって本棚から引っ張り出してきました。大好きな池辺葵さんのマンガ。同じどぶ川つながりとはいえ、こちらは心温まる読後感。

我が家のもうじき4歳になる娘は、今「シンデレラ」や「白雪姫」などのプリンセスストーリーが大ブームで、毎日飽きずに熱心に絵本を読んでいます。
でも母親としては、「お金持ちの王子様がやってきて、美しい娘を助けてくれる」という話は心底つまらなく感じるし、パートナーの経済力や自分の見た目の美しさに頼ることなく、自立した人生を歩んで欲しいと願っているわけです。

でも、この「どぶがわ」を読んでいると、女はいくつになってもお姫様やドレスに憧れるものだし、「もし私がプリンセスだったら……」と空想できる心を持っていれば、いつどこにいてもしあわせになれるわけで、それはそれですごく素敵だなと思えるのでした。

2015年1月27日火曜日

『共喰い』

『共喰い』田中慎弥

女流が続いた反動か、ものすごく男臭いものを手に取ってしまいました。

どぶ川の臭いが今にも漂ってきそうなほど、描写がリアルで生々しい短編集。最悪なことに、つわりがピークの時期に読んだので、何度もこみ上げる胃酸と格闘しながら立ち向かいました。ちょうど、切迫流産で絶対安静の入院中、これしか読む本がなく、途中でやめることもできずに。

どちらかというと平凡な、田舎の何気ない日常を描いているのに、なんとなくそわそわして、何かに追われているような、漠然とした不安に襲われながらページをめくると、最後に息を呑む展開。

読後感は決してさわやかではないけれど、物語はいつまでも川に沈んだ泥のように胸に残り、ときどきふと思い出して「あれはどういうことだったのだろう?」などと思い巡らせながら長く楽しめる1冊。芥川賞も納得です。

2015年1月3日土曜日

『台所のおと』

『台所のおと』幸田文

最近の女流作家とは一味もふた味も違う、昭和の女流文学。短編集で、どれもおもしろかったけれど、特にすばらしかったのはタイトルにもなっている「台所のおと」。

細かく丁寧に描かれた何気ない日常のひとコマと、人間味のある登場人物。読んでいて背筋がしゃんと伸びるような、凛とした佇まいの作品です。お正月に読んだこともあって、細々とした台所仕事をしたくなりました。

で、あまりに気に入ったので、母に勧めてみたところ、「古くて辛気臭い」と一蹴されました。いわく、「おばあちゃん(母の母)の世代感丸出し」とのこと。

なるほど、私にとってはもう古典と言っても差し支えないほどの未知なる大正~昭和初期の生活も、母にとっては、姑世代が口にしたであろう「私たちが若かった頃は……」を思い出させる窮屈さを感じるのでしょうね。「古きよき日本」は、もしかしたら若い人の幻想なのかもしれないと思ったのでした。